楠原行政書士事務所

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『コンテンツ産業の下請企業の職務著作の問題点とその対応について』

 

行政書士 楠原 義弘

 

I.      本論のねらい

  札幌には、ゲーム、アニメーション、モバイルあるいはオンラインコンテンツなどのコンテンツビジネスに携わる中小業者が数多くあり、その多くが東京の大手企業の下請[1]を行っている。ところが現行の著作権法下では、コンテンツを制作する企業がその氏名を表示する場合、すなわち元請である場合には、当該企業がそのコンテンツの著作者となるが、下請である場合には、プログラマー以外のコンテンツを制作する従事者が原始的に著作者となると規定されている。ゲームあるいはアニメーションなど、1つのコンテンツにいくつもの著作物が複合的に成立するコンテンツビジネス[2]において、個々の著作物に著作人格権の行使がなされる可能性のある状態では、コンテンツビジネスそのものが非常に不安定な状態におかれることになる。本論では、このコンテンツビジネスの下請企業における著作権法上の問題点(職務著作の不成立)を明らかにし、下請企業の対応について検討したい。

 

II.    著作権法上の職務著作について

(ア)     条文および趣旨

著作権法第15条では、職務著作について以下の通り定めている。

「(職務上作成する著作物の著作者)

15条 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。」

著作権法第15条の趣旨については、第1に「法人等の中におけるインセンティブを与えるためには、資金を投下する法人等を保護する必要があること」、第2に「多数のものが関与するために内部のものにとっても著作活動を行ったものの特定が困難となることもあるところ、著作者が不明確なままだと許諾を求める先が不明確となり、また仮に確定できたとしても多数の者が共同著作者となって権利を行使する可能性があるために、著作物の円滑な利用に支障が生じかねないことに鑑みて、個別の創作者の権利行使を制限し、権利の所在を法人等に一元化することを図った規定」[3]であると考えられている。財産権としての著作権を法人が保有することは不自然とは考えられないが、本来、著作者人格権は自然人でしかありえないはずである。法はコンテンツビジネスの進展に配慮し、法人そのものが著作者となるような規定を置いたものと考えられる。

 

(イ)     1項で定める職務著作成立の要件

著作権法151項では「職務著作」の要件について以下の通り規定されており、これらの要件を満たす場合、著作者はその法人等となる。

      法人その他使用者の発意に基づくものであること

      法人等の業務に従事する者が作成するものであること

      職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)

      その法人等が自己の著作の名義の下に公表

      契約、勤務規則その他に別段の定めがない

過去職務著作の成立について、②の職務上作成したと言えるかどうか[4]、あるいは④その法人等が自己の著作の名義の下に公表していない[5]かどうという点について争われたケースはあるが、本論の下請の場合の法人の職務著作の成立について、争われた事例はない。

 

(ウ)     2項の例外規定

著作権法第152項によれば、公表の名義にかかわらずプログラムの場合の著作者は法人等としており、元請下請の別にかかわらずプログラムの場合の著作権及び著作者人格権は、法人が原始的に取得することになる。これは、①「プログラムは、改編が極めて容易であるためにリプレースやヴァージョンアップにより頻繁に変更が加えられ、どの部分をだれが制作したのかということが本人も分からなくなっていることが少なくない」ことから、「権利処理を一元化する必要が特に高」く、②「効率性を追求して作られるプログラムは、そもそも創作者の人格的利益の不着の度合いが低いから、著作者人格権というものを保護する必要がない」[6]ことから、プログラムについては例外規定を置き、著作権及び著作者人格権を法人に帰属させることとしたものと考えられる。

 

(エ)     コンテンツビジネスにおける下請企業と著作権法

下請企業によってコンテンツが制作される場合については、たとえ作品を丸ごと作っていたとしても、「④その法人等が自己の著作の名義の下に公表」の要件から外れることとなり、第2項に定めるプログラムの場合を除き、コンテンツに含まれる個別の著作権及び著作者人格権は、元の制作会社も下請企業にも発生せず、原始的にデザインなどをした従業員が取得することとなる。これは、「著作者という概念は契約で左右できるものではないので(59条参照)、解釈論としてはいかんともしがたい」[7]ということである。

   下請企業と従業員の間の職務著作の成立についてまとめると、下表のようになる。

 

(事業の内容と労働者の種類による職務著作(=著作者は会社)の関係)

 

プログラマー

デザイナー等

自社の名前の作品

職務著作

職務著作

下請作品

職務著作

職務著作に該当しない

 職務著作=著作者は会社  職務著作に該当しない=著作者は作業従事者

 

III.  問題点

著作権法151項は「法人等が自己の著作の名義の下に公表する著作物」の場合にのみ、法人に著作権のみならず著作者人格権について原始的に取得を認めた。これは、現代の2次、3次の下請が存在し、巨大な産業となったコンテンツビジネスにそぐわない部分がある。

まず、元請会社が制作を下請に丸投げするような場合に、実質的なコンテンツ制作における法人の機能は、著作の名義が元請になる以外、まったく異なることはない。

  この場合の一番の問題点は、著作人格件の一つである「同一性保持権」が下請企業にも元請企業にも認められず、下請企業の従業員等であるデザイナー等が原始的に取得するということである。たとえば続編を制作したり、アニメーションのテレビシリーズをOVA[8]に展開したりする場合といったビジネスの継続について、必要に応じてキャラクターデザインなどを変更することなどがあるが、著作者人格権を保有するデザイナーがデザインの変更を承諾しない場合、ビジネスの継続が困難になると言った状況が想定される。この「同一性保持権」が企業側に与える影響について、学説及び立法者はあまり考慮していない[9]

  また、実質的に企業と制作に携わる従業員等との関係は、元請下請でまったく変わりはないにもかかわらず、従業員の権利の発生に差異が出てしまうという点も問題である。従業員の管理能力がより高い大手企業では従業員の著作権及び著作者人格権の取得が制限され、管理能力がより低い下請企業ではプログラマー以外従業員が著作権及び著作者人格権を原始的に取得することになってしまい、従業員管理がより必要となるという点も、下請企業が零細である場合には荷が重く、負担となることが考えられる。

 

IV.   対応の検討

  下請作品の場合、下請企業と発注会社の間では、発注契約書の中に、「下請した制作物の著作権等の権利処理については下請会社で処理し、元請会社には迷惑が及ばないようにする」といった趣旨の文言が必ず入っている。これが講学上の解釈では、下請企業の従業員の著作者人格権の取得について「いかんともしがたい」ということになり、このような契約上の文言は、著作権法上何ら裏打ちを持たないものとなるが、経済活動上の要請から、実務的には下請企業の従業員に対する著作権、著作者人格権の行使は制限しなければならず、下請企業とプログラマー以外の制作に従事する従業員間の取り決めは、必須なものと考えられる。

その場合に、たとえばデザイナーなら労働の提供(デザイン)に対して対価(給料)を得ており、従業員の著作権、著作者人格権の行使の制限は労務契約を前提としたものと考えることができるから、労務契約に附従したものとして、プログラマー以外の制作に従事する従業員の労務契約の中に以下のような文言を織り込むことが考えられる。

「1 甲(使用者)の企画発案または承認に基づき甲がその氏名を表示する作品については、甲が著作者となり、乙(従業者)がその職務上作成する一切の著作物の著作権および著作者人格権は、甲に帰属するものとする。

2 下請作品等甲がその氏名を表示せず、著作権法15条の規定により甲が著作者となることができない著作物に関する一切の著作権(著作権法27条および28条の権利を含む。)は、著作物の完成と同時に自動的に甲に移転するものとする。

3 乙は、前項の著作物について、甲ならびに甲から正当に権利を取得した第三者およびその他甲の指定する者に対し、著作者人格権(公表権、氏名表示権および同一性保持権)を行使しないものとする。」

しかしかかる取り決めをあらかじめ従業員との間で結んだとしても、①著作者人格権はもともと一身専属的なものであり放棄が許されるものではない、②雇用者と被雇用者という立場で結ばれた著作権の譲渡を予定する取り決めは、雇用者の優越的地位により結ばれたものであり、個別の案件によっては裁判所により無効であるとされる可能性もある、といったリスクが下請企業には考えられる。たとえば、キャラクターデザインが大ヒットし、企業側に多額の利益が生じて著作者からその利益の請求を受けた場合などは、利益配分の公平性の観点から、デザイナー主張が一部認められるなどである。

それでも下請企業側としては従業員と上記の取り決めを交わすのは、①ビジネス推進の上で合理性の高い規定であることを従業員に理解してもらえれば、従業員との円滑な関係が維持できることが期待される、②万一こじれた場合でも対従業員との交渉の上で心理的に優位に立てるなど、予防的措置として有効ではないかと考えられる。

ゲームやアニメーションといった現代のコンテンツ産業の主力となる産業は、いわば大きな建築現場におけるゼネコンと下請企業のような構造になっており、実際の制作現場で主力をなすのは下請企業といった場合も少なくない。その場合、「氏名の公表」のみに企業側の実益を求め、元請企業と下請企業の間に差異を設ける現行法の規定は、下請企業及びコンテンツビジネスの推進上から、必ずしも適切なものではない状況が出現する。下請企業は、プログラム以外の著作物に職務著作が成立しないことに留意する必要があり、成立しないことに対する予防的措置を検討することが必要である。

 

 

以上

 

<参考文献>

著作権法令研究会. (2005). 実務者のための著作権ハンドブック. 社団法人 著作権情報センター.

田村 善之. (2006). 知的財産法 第4. 有斐閣.

八代 英輝. (2006). コンテンツビジネスによく効く、著作権のツボ. 河出書房新社.

 

 


[1] 下請には、デザインのみ、あるいはプログラミングのみといった部分的な場合のほか、アニメーションでいえば全13話のうち5話と6話であるとか、ゲームでいえば作品丸ごと請け負うこともある。

[2] 結合著作物と考えられ、たとえば、ゲームであれば一つの作品の中に、主にシナリオ、デザイン(とくに重要なのがキャラクターデザイン、他にパッケージや背景など)、楽曲、プログラムといった複数の独立した著作物が混在する。

[3]田村善之著『知的財産法 第4版』P460

[4] 最高裁判決平成15411日「RGBアドベンチャー事件」中国人のアニメーションデザイナーとアニメーション会社の間で「法人等の業務に従事する者」かどうか争われた判決では雇用関係にない場合においても、「法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきものと解するのが相当である。」として、広く職務著作の成立を認めた。

[5] 東京高裁判昭和60124日「新潟鉄工事件」会社が公表を予定していないプログラムを持ちだして業務上横領に問われたケース。公表を予定していないため職務著作が成立しないとして争われた。判決では「公表が予定されていないものであっても、仮に公表されるとすれば法人の名義で公表される性格のものは、法人が著作者となる」と判示した。

[6] 田村善之著『知的財産法 第4版』P463

[7] 前掲書P463

[8] OVAOriginal Video Animation)=オリジナル・ビデオ・アニメーション DVDなどのメディアによる販売又はレンタルを販路として作られるアニメーション。広義には劇場公開版も含められることもある。テレビシリーズの場合、OVAに展開した収益も含めて採算が検討される。

[9] 前掲書では、「特に翻案権と独立して行使しうる同一性保持権を法人等に認める必要性は毛頭ない。(中略)法人等に行使させる意義が認められるのは、氏名表示権くらいであろう」として、法人等が同一性保持権を持たずに行使されることのリスクについては言及が及んでいない(P461)。